CASE-5
ASUKA
何だか、嫌な予感がするわ。
一体シンジ何処にいったのよ。
夕べも、今日もTELしたけどあいつは帰ってない。
まさか、カヲルの処?
気になるわ。落着かない。
確かめてみる?
私はアドレス帳を開きかけて手を止めた。
・・・・・冗談じゃないわよ!
私はアドレス帳を投げ捨てる。
壁に当たったアドレス帳は、ぼとりと床に落ちた。
あんな奴の処になんかTELしたら、後でどんな目に遭うか分かったもんじゃない!
それに、大体この私が”シンジいる?”なんて間抜けなこと聞ける訳ないじゃない。
たとえ聞いたとして、どうするのよ。
いなかったら安心して、いたら・・・・・いたら・・・?
・・・・馬鹿らしい!な〜に考えてるんだろ。
やめ、やめ、シンジが何処にいたって関係ないわ。
それに、カヲルの処に居たところで何があるって言うのよ。
”押し倒したんだよ・・・・・・”
ゲ・・・・
とんでもないことを思いだしちゃった。
まさか、そんなことありっこないわ。
第一、シンジはカヲルを避けてたんだし。
幾ら何でもそんなこと出来る訳ない。
幾らカヲルだって・・・・
でも・・・・シンジの行く処って言ったら、他に思い付かない。
何があったのよ、もう!
昨日まではあの二人、離れてたじゃない。
シンジは情けないくらい、おたおたとカヲルを避けてたし、
カヲルなんか、一日中ぼけ〜っとしちゃってさ。
だから私もちょっと油断しちゃったのよね。
さんざんカヲルには言われたから、もうザマーミロって感じだったのに。
私の知らない間に、仲直りしちゃったって訳?
まずいわ、
そうだとしたら、私もうかうかしてられない。
酷い目を見るのは、私になりかねないわ。
でも、どうすればいい?
どうすればカヲルを出し抜ける?
まさか、手遅れなんて事はないわよね。
もう!落着かないったらありゃしない。
ああ!もう!折角のお休みだって言うのに・・・・
月曜日。
憂うつな月曜日。
やっと月曜日。
それにしても、ろくな休日じゃなかった。
遊びに行く気にもなれなかったし。
全く無駄に過ごしたって感じよね。
これも馬鹿シンジの所為よ!
あの馬鹿がちゃんと家に居れさえすれば、私はこんなに悩まなくても済んだのに。
「おはよう、アスカ、」
「ヒカリ、おはよう、」
昇降口で出会ったヒカリと、並んで教室に入った。
ぐるりと教室を見回してみる。
シンジもカヲルもまだ来てないみたい。
二つの席の主は不在。
とりあえず私は自分の席についた。
テキストを整理して、ヒカリと雑談。
私がすっかり落着いたって言うのにあいつらはまだ来ない。
もう、いいから早く来なさいよ。
二人は一体どうなったわけ?
気になるのよ!
「おはよう、」
シンジの声。
来た!
しかも二人揃って!何なわけ?!
へらへら笑ってるんじゃないわよ!馬鹿シンジ!
カヲルもいつもの自信過剰な笑みを浮かべてる!
ちょっと、なんで元に戻ってるのよ!
ほんとに仲直りしちゃったの?
冗談でしょ?!
思わず二人を睨み付けた。
私の視線に気が付いたのか、カヲルがこっちを見る。
そして、私にだけ分かるような挑戦的な眼差しで、確かに笑った。
ガタン!!
私は思わず立ち上がってしまった。
「・・・・・アスカ?」
急に立ち上がった私を、ヒカリが驚いて見上げている。
「どうしたの?」
「何でもないわ・・・・ごめん、」
どうにもやり場の無いものを感じながら、座り直す。
カヲルのあの表情、
私はすぐにピンときた。
何か、あったわね・・・・・
もう、のんびりしてはいられない。
急がなくちゃ。
早くシンジに私という存在に気が付かせなきゃ。
私には自信がある。
私は自分の良さを分かっているもの。
だから、間違いない。
シンジは絶対私を好きになる。
そうよ、シンジは私を好きになるわ。
大丈夫。
CASE-6
ASUKA/SHINJI
「ねぇ、シンジ今日放課後ちょっと付きあいなさいよ、」
「・・・・・なんで?」
「なんでも何も、この私が付きあえって言ってるんだから、素直に”はい”って
言えばいいのよ!」
一体どういう理屈だろう?
何時もながら、ほんと我侭だなアスカ。
何でも自分の思い通りになると思ってる。
まぁ、でも優柔不断の僕にはアスカ位強引なほうが楽なんだけど・・・・
それにしても、この偉そうな態度だけは頂けない。
十分可愛いんだから、もっと普通にしていればいいのに。
「勿論、断ったりはしないわよねぇ?」
「・・・・・・分かったよ・・・・・・」
僕はしぶしぶO・Kした。
ここで断ったりしたらどんな目に遭わされるか分かったもんじゃない。
それに・・・・・絶対断るほどアスカの事を悪く思ってはいないし。
何方かといえば・・・・・
まあ、僕がアスカをどう思っているかなんて
アスカにとってはどうでもいいことか。
でも、アスカぐらいだ。
僕に本気で言い返してくるのは。
言い難いことだってはっきり言ってくるし、
僕の事を嫌いなんだろうかと思ったこともあるけれど、
別に特別避けられてるようにも感じない。
アスカの考えていることは、よく分からないよ。
カヲル君の事も分からないけれど。
だからといって、他の人の事が分かっているわけじゃないな。
結局、僕は誰の事も分かってないんだ。
自分の事も含めて。
「カヲルくん・・・・・あのさ・・・・」
「ああ、シンジ君丁度よかった、
今日少し手伝って欲しい事があるんだけれど、」
え・・・・どうしよう
アスカとの約束の方が先だったんだけど・・・・
「あの、カヲル君・・・・・・」
「なんだい?何か都合でも悪いのかい?」
「・・・・うん、・・・・チョット・・・・アスカと先に約束しちゃったんだ、
だから・・・・ごめん・・・・・」
僕がそういうとカヲル君は少し考え込んだ。
なんだろう?
なんだか険しい表情?
「・・・・・分かったよ、じゃあ、明日お願いしてもいいかな?」
そう言ってカヲル君は笑ってくれた。
気のせいかな。
いつものカヲル君だ。
「うん、ごめんね、カヲル君・・・・・」
取りあえず僕は急いで帰りの支度をして、アスカが待っている校門へと向かった。
カヲル君に悪いことしちゃったかな?
でも、仕方がない・・・・よ。
約束はアスカの方が先だったんだ。
だから、そんなに気にすることはないよね。
カヲル君とあんなコトしたから、色々考え過ぎなんだろうか?
でもカヲル君は何も代わらなかった。
僕はカヲル君にどんな顔すればいいか分からなかったけど、
何時も通りのカヲル君に、僕も何時も通りにした。
初めはぎこちなかったけど。
今は、今までと変わらない。
でも、あのコトはどういう意味にとればいいんだろう。
普通はそういうコトを、同性同士ではしないと思う。
それともそう思っているのは、僕だけ何だろうか。
まさか、僕をからかったわけじゃないと思うけど。
カヲル君は何時も通りな代わりに、何も言ってはくれなかった。
自分で考えなきゃいけないって事か。
僕は再び箱の中の猫。
カヲル君は、箱を開けてくれるだろうか?
「もう!おっそーい!!何時まで待たせるのよ!」
僕が待ち合わせの場所に行くと、アスカは開口一番そう言った。
そんなに待たせたかな?
思わず、反射的に誤ってしまった。
「ご、ごめん・・・・」
「あんたってす〜ぐあやまるのよねぇ。ま、いいわ、じゃ、行きましょ!」
アスカは直に機嫌を直してくれた。
でも、よく考えれば誘ったのはアスカなんだから、僕が少しぐらい遅れたって
そんなに怒ることないのに。
「・・・・ところでさ、今日は何?」
「か・い・も・の、」
「買い物?何の?」
「水着よ、」
「み、水着ぃ?!こんな真冬に?!
大体、どうして水着なんか買うのに僕が付き合わなきゃならないのさぁ!
そういう買い物は、洞木さんに付きあってもらえばいいだろぉ!」
「馬鹿ね、ヒカリは忙しいのよ、あんたと違って!
それに、この私の買い物に付きあわせてあげるのよ。もっと喜びなさいよ。」
勝手な言い分だなぁ。
でも、アスカの買い物に付き合いたい男は確かに沢山居るだろう。
だったら、よりにもよって僕なんかを選ぶ事は無いのに・・・・
本当に、何を考えてるんだか・・・・
「あ、そうだ、一つ言い忘れたけど、夏になってから水着なんか買ってたら
はやりに乗り遅れるものなのよ!分かった?ばかシンジ!」
アスカは得意げにそう言ってのけた。
「・・・・・ふ〜ん・・・・・」
僕にはあまり関係ない。
夏になったって、泳いだりなんかしないし。
仮に泳いだとしても、わざわざ毎年流行に合わせて水着を
買い替えたりなんかしないよ。
僕は空を見上げた。
昼頃までは太陽が出ていたのに、なんだか怪しい雲行きだ。
急激に曇ってきている。
雨なんか降らなきゃいいけど。
それに比べアスカ・・・・楽しそうだ。
そんなに水着を買うのが嬉しいのかな?
「ちょっと!何ぼけっとしてんのよ!早く来なさいよ!」
ついに、僕は入り口のところで足を止めた。
そ、そんなこと言われても・・・・・
こんな店に入れないよ。はずかしくって・・・・
女性用の水着が所狭しと並んでいる。
冬だっていうのに・・・・
あ〜、来るんじゃなかった・・・・今更後悔しても遅いけど・・・・
「・・・・・僕、ここで待ってるよ・・・・・」
「何いってんのよ!それじゃあ意味が無いでしょ!
シンジは私が着た水着をみて、ちゃんと感想を言うのよ。
まぁ、この私が着るんだからどんな水着も素晴らしく見えちゃうだろうけど・・・・」
「・・・・・だったら、いいじゃん・・・何買ったって・・・・」
「もうバカね!その中でも、より私に合うものを選ぶんでしょぉ!」
ほんと、まいったなぁ。どう考えても、このままじゃ済まなそうだ・・・
・・・・・新手の嫌がらせかな?
僕は諦めてアスカと一緒に店に入った。
思った通り、女の子ばっかりだよ。恥ずかしいなぁ・・・・もう・・・
僕の憂鬱をよそに、アスカは水着を物色し始めた。
どうでもいいから、早く選んで欲しい。
場違いだったら無いよ・・・・・
「・・・・・・・・」
あ、僕以外にも男の人がいる。
手持ちぶさたな僕は、店内を見回し自分以外にも男の人を見つけた。
あの人も無理やり連れてこられたんだろうか・・・・・
「ねぇ、シンジ、シンジ!これどう?!」
更衣室の中からアスカが呼ぶ。勢い良くカーテンが開いた。
「じゃぁーん!」
「?!あ・・・・アスカ・・・・ちょっと・・・!」
鮮やかな、赤いセパレートの水着をアスカは着ている。
凄い露出度だ!
あまりにも大胆!
僕は赤面してしまった。耳まで熱い。
「ねぇ、どうなのよ!?」
「ちょ・・・ちょと・・・・大胆すぎない?」
「ばっかねぇ、これくらい当たり前よ。こんなのまだまだ大人しいくらいだわ、」
アスカは背筋を伸ばし、大きく胸を反らした。
目のやり場に困った僕は、視線をあちらこちらに走らせる。
すると、さっきの男の人が彼女らしき人と楽しそうに水着を選んでいた。
そうだよ、アスカもそういう人と来るべきなのに・・・・・
「ちゃんと、見なさいよ!ば・かシンジ、」
「み・・・見たよ!見た!それがいいよ、その水着が似合っているよ・・・・!」
「そう・・・・・?じゃ、これに決めたわ!」
アスカは暫く鏡に自分を映してポーズをとると、やっとカーテンを閉めた。
ふぅ・・・・もう、まいったなぁ・・・・
でも・・・・
アスカ、足長いなぁ・・・・それに・・・・・胸だって・・・・
アスカがスタイルいいのは、今までだって知らない事じゃなかったけど、
こうして改めて見せられちゃうと・・・・
「おまたせ!」
「うわぁ!!」
「?何驚いてるのよ?」
「い、いや・・・べ、別に・・・・・・」
きゅ、急に出てこないで欲しいなぁ、驚いた・・・・
僕は冷や汗を沢山かいてしまった。
アスカは買い物を済ませ、僕たちは店を出た。
空はさっきよりもずっと暗くなっていて、今にも降り出しそうだ。
「やだ、雨が降りそうだわ・・・・」
「本当だ・・・・」
「傘なんて持ってきてないもの、急いで帰りましょ、」
「そうだね、」
僕たちは出来るだけ速足で歩いたけれど、雨雲の成長には適わなかった。
最初の雨の一粒が落ちてくると、後はあっという間。
この季節には珍しい、俄雨だ。
「うっそぉ!」
「ついてないなぁ」
僕たちは直ぐにびしょ濡れになってしまった。
それでも、走ったり、屋根の下を通ったりしてなんとかアスカの
うちまで辿り着けた。
「ちょっと、うちで雨宿り為ていきなさいよ、そのままじゃ風邪引くわ。」
心配しなくても、この時間は誰もうちにいないから大丈夫よ、」
僕は少し迷ったけれど、濡れた体は確かに寒かったしもう少し待てば
雨も上がるような気がしたので、アスカのうちに寄る事にした。
「まってて、今タヲル持ってくるから・・・・・」
ぱたぱたとアスカが廊下の奥に消える。
静かだな。
雨の音ばかりが大きく聞こえる。
髪の毛から、雨が滴り玄関のタイルに落ちた。
僕は寒さに体を震わせる。
寒いな・・・・風邪引きそうだよ。
「おまたせ・・・・・はい、タオル、」
アスカがタオルを持って戻って来た。
「ありがとう、」
僕はアスカが差し出したタオルに手を伸ばす。
その時、僕は不意にアスカに腕を掴まれ、強く引かれた。
「?」
そして、アスカは掴んだ僕の手を自分の胸に押し当てる。
な・・・・・何?
僕はアスカの行動が理解できなかった。
アスカの手を振り払うでもなく、胸の膨らみに押しつけられている
自分の手をじっと見詰める。
僕の手の平は一体何に触れているんだ?
温かくて・・・・・
そこに在るのは、絶対自分の意志じゃない。
柔らかいんだ・・・・
だって、僕の手首は掴まれてる。
「・・・・・・・・・・・」
「シンジ・・・・・キス、しよっか?」
たった今、原子核の確率的な崩壊が起きた。
多分・・・・・